南出メリヤス:工場長 インタビュー
服作りが人生の全て
idy編集部は、大阪にある老舗婦人服専門メーカーで、日本のファクトリーブランドの先駆け的存在である南出メリヤス株式会社とそのブランド「NARU」へのインタビューを実施しました。
「NARU」へのインタビューでは、会社やブランドとして「日本製」や「自社製造」にこだわる想いやブランドの目指す未来についてのインタビューを行いましたが、この記事では製造の現場で生産管理や現場のマネジメントを務める工場長、石原明彦さんにお話を伺ってきました。
現状日本国内で販売されている洋服のうち国産は3%に満たないと言われています。そんな中で、国産アパレルの現場を統括する工場長としての想いやコダワリ、背景にあるクラフトマンシップ、また業界の未来について、色んなことを教えていただきました。常に周りを見渡す冷静さと優しさ、そして服作りへの愛情が溢れる石原さんのお話をぜひお読みください。
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南出メリヤスが手がけるファクトリーブランド「NARU」へのインタビュー
「自分達の洋服作り」をするという信念
— 石原さんのこれまでの経歴を簡単にお聞かせください
ずっと繊維業界におりまして、今37年目で3社目です。元々は大手スポーツウェアのOEM企画や縫製に携わったり、海外工場の技術指導などをやっていましたが会社が廃業して南出に拾ってもらいました。入社してからは20年目ですね。
最初はOEM生産[他社ブランドの製品の製造、いわゆる下請け]がほとんどで、待っていれば仕事が来るという状況ではなかったのでブランドにこちらから企画を持っていくようなことも多かったです。つまりOEMではありますが、実質他社のブランドの名前で自分たちの商品を売っているような状況でもあったわけです。そんな中で社長から他社の指示に従わないといけないものづくりではなく、自分達のブランドを持ちたいという話があって、0から企画や環境構築を行ってきました。
最初はミセス向けのブランドをやっていたんですがなかなか苦戦しまして、もっと技術と品質を活かした、それでいてカジュアルなブランドをやろうという流れでNARUが立ち上がって、それまで他社との共同工場だったところを独自の縫製工場を持つと。その中で今までの経験を活かして工場長として生産管理をやって欲しいという形で、今のポジションになったわけです。
— 工場を新しく作るというのはかなり大きな決断ですよね
そうですね、その頃から縫製技術者の高齢化は進んでいましたし、地域の縫製工場もどんどん減っていて、時流に逆らうような動きだったので、周囲からは心配されましたし反対もされました。そう簡単には成功しないと。確かに外部の工場や業者を使って作っていくという道もあったと思います。それでも社長を含め私たちは自分達の洋服作り、ものづくりをするんだという気持ちが強かったので、反対してきた人々を見返してやるくらいの気持ちで工場を始めました。技術を守り繋いでいく、地域の産業を守るという意識もあったんじゃないですかね。
最初は4人でしたが、今では20人を超えるスタッフがいるしっかりした工場になりました。裁断から検品までほぼ全ての工程を自社で出来る工場になったことは誇らしく思いますね。
— 洋服作りの工程にはどんなものがあるんでしょうか
簡単に説明しますね。まず企画やデザイナーで仕様書を作り、それを元に、デザイナーやパタンナーと製造側で打ち合わせを行って全員が企画や商品の意図を共通認識として持ちます。パタンナーがCAD[図面や設計書を描くためのソフトウェア]でパターンを作って、私が裁断をします、生地から服のパーツを切り出すわけですね。昔は型紙とペンを使って手作業で切っていましたが今は大きな機械が自動でやってくれます。そこからは縫製、ミシンを使ってパーツを組み上げます。ほつれや穴などの傷や汚れなどないかをチェックする検品、プレスと呼ばれるアイロン掛けの工程や、製品によっては洗いと乾燥工程を経て、札付けや袋詰めをして、最後に金属探知機などで再度検品をして出荷となります。
1つのチームとして服を作る
— これを全部自社でやられてるんですか…
そうですね、これだけの全工程を自社でやれるところは国内でも珍しいんです。カットソーやシャツからパンツ、ダウンのようなアウターまであらゆる製品を作ることができるというのでさらに珍しい工場だと思います。私たちも最初はカットソーの縫製だけでしたが、長い時間をかけてチャレンジと努力と投資を重ねてきた結果として、多くのお客様に喜んでいただくための多様な製品作りができるようになったわけですね。
— それはものすごく大きな強みですよね。他にもNARUならではの強みはありますか
お客さん、営業/販売、企画/デザイナー、パタンナー、縫製。この五者の繋がりが強い、スピード感のある情報共有が出来る、というのは私たちならではだと思います。私たちはまだそこまで規模の大きくない工場ですので、営業/デザイナー/企画と製造サイドの距離が物理的に近い、縫製と裁断の現場もとなりあってるわけです。通常の工場では、営業や販売がお客様から色んな声を聞いてもそれが企画になかなか共有されづらかったり、企画やデザイナーの意図がパタンナーや製造工程に正しく伝わらなかったり。
そういったコミュニケーションをしっかり取って、一つのチームとしてものづくりをすることがお客様に喜んでいただける商品作りに一番大切なのではないかと考えています。
例えば良い着心地を実現すること一つにしても、デザイナーとパタンナーの連携がとても大事で、素材とシルエットの組み合わせと、経験によって「ここはこういう形にした方が気持ちよく着られるんじゃないか」とか。パタンナーと縫製も、縫製側から「ここは実際こういうパターンだと余裕のある仕上がりにならない」という声が上がって修正が入ったりですとか。
お客様に喜んでいただけているという評判の声や、雑誌に掲載されたなどの情報、あるいはここをもっとこうして欲しいという要望も、すぐに営業を通して企画サイドや製造の現場まで届くので、現場のモチベーションも高く維持しやすいですし、品質の高い製品を作り続けられる大きな要因だと思いますね。…不評や改善点が連続して伝わってくると落ち込むこともありますけど(笑)
またNARUのスタッフは女性が多いので、彼女たちが自分たちの目線で「本当に着たいと思えるもの」という基準で、商品に向き合ってくれているというのも大きな強みかなと思います。その分企画やデザイナーに対する声だったり、検品に関しては結構厳しいなと思う時もありますよ(笑)
1人1人の経験とこだわりを活かすチーム
— 確かにみなさん近いですし、よくお話されてました。それが商品に活きるわけですね。
— 洋服作り、商品へのこだわりは何かありますでしょうか
私自身の話で言うと、先ほども話したように各部門が密接に繋がっているということもあり、私が裁断をする時に「ちょっとここの裁断角度を変えたらどうだろうか」とパタンナーの方に相談してより良いものを作ったりですとか。教科書的というか理屈の上ではこの形の方がいいんだけど、実際に裁断をするとちょっと違う、この素材でやる場合はちょっとこうした方が最終的に良くなる、みたいなことが37年の経験で分かったりすることもあるんですよ。
でもこれは私だけではないんです。みんなそれぞれの経験やこだわりがあって、こうした方がいい、いやそこはこうしよう、とかそういう意見を言いあえる文化や環境があるというのは品質の高い、私たちだけの洋服作りに繋がっているのかなと思います。言われたことをやるだけじゃつまらないですしね、みんなそれぞれの想いや考えがあって、その度に何度も話し合いを重ねて、最終的にはもっといい製品になる。私が縫製を教えてるはずの実習生の子達にもそれぞれこだわりがあったりして、色んな意見を言ってくれますし、確かにそうだなと思った時はそれを商品に反映させてより良いものになっていきますしね。
— (同席していた南出さん) 洋服ってすごい細かい部分の差で大きな違いが出るんです。だからみんなの意見も「ここが大きく違う」とかではなく、あと数ミリずらした方がいいんじゃないかとか、生地がこうだから感覚的にこうした方がいいとか、そんな感じで。でもそれだけで着心地が数段良くなったり、シルエットの見え方が美しくなったりするものなんです。だからこそ色んな意見を集めて、尊重しあって話し合って、試してみて、よりよいものを作るという工程が、より完成度の高い商品には必要なことですし、私達が大事にしている部分でもあります。
— 今まで作ってきた中で、思い入れのある商品はありますか
数年前から作っているダウンですね。「カットソーの縫製から始まった工場がここまで来れた」という想いもありますし、なにより作り始めるまでの経緯が大変だったんです。
最初はもちろん技術が全く分からないところからのスタートでした。他の工場はダウン専用のところがほとんどで、その技術は企業秘密、なかなか教えてもらえるようなものじゃなかったわけですね。だから日本のブランドが生産を委託している海外の工場まで行って、何人も人づてにお願いをして、なんとか技術を教えてもらいました。羽毛を詰める工程については、近くの布団屋さんにご協力いただくなど、色んなチャレンジと、多くの方の力を借りてできた商品だからこそ思い入れはありますね。おかげさまでデザインや暖かさ、着心地について好評いただいている商品になりました。
— 着心地の良い服はどのようにすれば作れるのでしょうか
なかなか難しいところですね、なによりお客様一人一人感じ方は違うので。技術としての定義というよりは、上に挙げたような細かい試行錯誤の積み重ねが一番着心地の実現に役立っていると思いますが、あとは試作:サンプルの作り込みが大きいですかね。デザイナー、パタンナー、裁断、縫製と連携して、それぞれの意見を話し合って取り入れて何度もサンプルを作るんです。そして実際に色んな女性社員やスタッフに着用してもらって、意見を集めて、また修正したサンプルを作る、その繰り返しです。
長い時だと1ヶ月以上サンプルの試行錯誤を繰り返す時もあります。しかもそれが数十商品もあることもあるので、私たちの規模では結構大変な作業です。毎回、私も驚くくらいの細かい修正が入って、でもその積み重ねのお陰で完成度の高い、お客様に喜んでいただける商品になるので私達にとってはとても大事な作業ですね。
服作りと米作りの共通点
— お客様からの声で何か印象に残っているものや、NARUを着てくださったお客様に感じて欲しいことはありますか
直接お客様からの声を聞く機会は少ないのですが、営業などから上がってくる情報として、喜んでくださっているとか評判だということを聞くのはやはり嬉しいですよね。同じ商品を全カラー買ってくださった人とか、毎年同じものを気に入って買ってくれてる人とか本当にありがたいなと思います。
逆に、ご意見やご指摘をいただくこともありまして、例えば何度か洗濯してるうちにカットソーの裾が少し巻くようになってしまったですとか[編集部注:どんな服でも普通に洗濯していればそうなる程度の話です]、なかなか難しいご指摘だな…と思う時もありますが、それでもこちらで縫製をやり直したりアイロンをかけ直したりしてできる範囲で良い状態にお直しするといったこともやったりしていますね。お客様に喜んでいただけるならできることはなんでもやります。
ほぼ全ての工程を自社でやっているからこそ、私たちの服作りは米作りに通じるところがあると思っていまして、お米は農家さんが「みんなに美味しいお米を食べて欲しい」という思いで土を作るところから始まり、手間をかけて苗や稲を育てて、収穫をし精米をしてお米になり、皆さんの食卓に並ぶわけですね。
服も同様で、生地や繊維そのものを作るところから考えるととても多くの人がそこに携わっていて、みんな「この服を着てくれた人に喜んでもらいたい、笑顔になってもらいたい」と思いながら日々仕事に励んでいるわけです。その想いがそれぞれあるから、製造の各工程でも意見を出し合って時にはぶつかり合ったりもして、最終的に良い製品を作るためにみんなで頑張ると。
服を着る人がいちいちそんなことを考える義理はないんですけど、一着の服が出来るまでに多くの人が想いを込めて来たということを少しでも感じていただいて、大切に長く愛用していただけたらそれ以上のことはないと思います。
業界の変化と明るい未来
— 国内の縫製や繊維業界は高齢化が問題とよく聞きますが、実際はどうでしょうか
縫製に携わる人々はどんどん高齢化が進んでいて、日本の若い子達がなかなか入って来ないし、実際に周りの会社や工場でも全然採用できなくて大変そうですね。ところがうちには今度2人入って来てくれるんです。全て自社でやっていることとか、規模がそこまで大きくないこと、先ほど話したようなチームの連携とか、またweb上で色々な情報発信をしてあるところとか、そういうところに惹かれて入ってきてくれるみたいで。
今はSNS[instagramなど]で発信している小さい個人のアパレルブランドもあったり、YouTubeで縫製やミシンの技術などを結構しっかり教えている動画もあったりして、一人一人がこだわりを持って取り組める小〜中規模の洋服作りが見直されてきている気もしていますし、私達のような会社がよりよい仕組みを作ったり発信を続けていくことで、若い人にも興味を持ってもらえるんじゃないかなと。
業界としても色々変わっていかないといけないことは多いですし、私も昔はこの業界どうなってしまうんだろう…と思っていたんですが、最近は色んな流れが変わってきていて。明るい未来が待っているんじゃないかと思いますよ。
— ファストファッション隆盛の時代ですが、それらは意識されてますか
あんまり意識していないというか、意識しないようにしている部分はありますね。コストや量産の部分でどうしたって勝てない面はありますが、なにより良いものを作っている自負はありますしね。何度もお話しした、規模による小回りの効きやすさや、社内の連携でよりお客様に寄り添った商品を作れているというのも大きいと思います。
それになにより、しっかりやっていれば見てくれているお客様はいらっしゃると思うんですよ。業界としてはやはり衣食住の一角ということもあり、なかなか古い体質な会社も多いですが、今はオンラインストアやSNSの活用、広報も販路も色んなやり方があるので、「いいものを作る」という基本だけは忘れずに、色んなことにチャレンジしていけば、多くのお客様に愛していただけるブランドになるかなと、その片鱗は見え始めているかなとも思ってます。まだまだこれからですけどね。
日本一のファクトリーブランド
— 今後、NARUとして目指すもの、挑戦していきたいことはありますか
— (南出さん) なによりも日本で一番の洋服の工場、日本で一番のファクトリーブランドを目指しています。そのためには工場を大きくしていく必要もありますし、人も増やして育てていきたくのも大切です。もちろんそういう計画もありますが、もっと身近なところでいうと技術の向上ですね。
おかげさまでNARUの品質は既に一定のお客様にご好評、信頼していただいているところではありますが、技術の面でも機材の面でもまだまだやれることがあるはずです。例えばテーラードスーツの技術なんかはやはりとてもレベルの高いもので、通常カットソーなどに用いる技術とはまた違うのですが、あらゆる技術や手法を取り入れていくことが大切だと思っています。普段着だけど、高級スーツのような最高の技術を持った職人が作っているって素敵じゃないですか。まずは品質で日本一の工場を目指していきたいですね。
あと製造できる商品をまだまだ増やしていきたいですね。例えば先ほどのダウンの話もそうですが、新しいものを始めるというのは毎回本当に大変なんです。それでも、これからも沢山のチャレンジを繰り返して、新しくて良いものを作っていきたいですし、それが私たちの強みでもあると思っています。全部自社製造で、カットソーからダウンまでやってる工場なかなかないと思いますよ…私たち以外にあるのかな?(笑)
— オンラインストアやブログでの発信など、webも色々と活用されてますよね
オンラインストアも実はまだ初めてから3年しか経っていないのですが、売り上げの2割程度にはなって来たので、これをもっと増やしていきたいですね。SNSなども活用して、もっと色んな発信や取り組みをして、NARUの製品の良さを日本全国の方に知っていただいて、もっと多くのお客様の毎日を少しでも楽しく、彩りを添えることのできるブランドを目指しています。
またジャケットやシャツ以外、例えばカットソーやトレーナーなんかでもオーダーメイドの商品作りが出来たりしたら面白いなとは考えてます。webから自分の体型を入力して、デザインを選ぶだけで、その人のスタイルを一番よく見せてくれる唯一無二の商品が届いたら面白いですよね。まだまだアイデアの段階ですが、今後出てくるアイデアも含めて、各部門が密接に連携してやっているからこそのスピード感、うちの規模だからこそ出来る、お客様に喜んでいただけるサービスを提供していきたいなと、日々考えています。
服作りが人生の全て
— 石原さんが洋服作りをする上での「誇り」はどんなものでしょう
やはり大きいのは「継続は力なり」ということで、繊維の業界で37年間やってこれたというのは誇りですね。業界に入りたてのころに一緒にやってた人たちはみんないなくなってしまいましたからね。会社として業界が変わってしまったり、やはりそれこそ昔はハードな業界だったということもありますね。そんな中で服作りが好きで、続けてこられたのはなかなか頑張ったなと自分でも思います(笑)。
あとはもちろん南出で工場長をやっている、やらせてもらっているということですね。入社から20年間、工場の立ち上げに始まって少しずつステップアップを重ねて、人も増えてこの規模になって作れる製品が増えて、いうことはなかなか感慨深いですしありがたいことだなと感じますね。任せてもらった社長はもちろん、入って来てくれてついてきてくれたみんなにも本当に感謝しています。人に恵まれて生きてこれた、というのも誇りかもしれませんね。工場長という立場ですが、日々みんなと接して、まだまだ教えてもらうことばかりだなとも感じていますし、ありがたいことですよ。
— 最後になりますが、石原さんにとって洋服作りとは
人生の全てですね。もうずっとこの業界にいますからね。好きじゃなきゃやってられないことで…好きなことを続けてこれたのはありがたいことですし、誇りでもあります。
継続は力なりで、未だに日々成長してるなと思いますし、いつでも新鮮で楽しいです。実は来年で定年の歳ではあるんですが、そこを一つの区切りにして、任せられることは任せて、まだまだ新しいことをやっていきたい。繊維業界37年目ですから、少なくともあと13年はやりたいですね。
— 今の勢いのまま、20年でも30年でもやっていらっしゃるような気もしますし、それくらい真っ直ぐで素敵な想いですね。
— 本当に洋服作りがお好きだからこそできる最高の工場/チーム作り、色々な方へのリスペクトなど、石原さんのクラフトマンシップを伺うことができました。本日はありがとうございました。
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