小杉湯



日常の範囲にある、ちょっとした贅沢 

江戸時代から日本人の生活に結びついている銭湯。その地域の人々にとって欠かせない生活インフラとして利用され、戦後から昭和40年代の最盛期には都内だけでも約2600軒の銭湯があったそうです。これはなんと現在都内に存在するセブンイレブン(2580軒/2017年)とほぼ同じ軒数。戦後の東京の人口は約350万人で、1400人に対して1軒の銭湯があったことなります。現在は28万人に対して1軒であることからも、当時の人々の生活にどれだけ銭湯が欠かせなかったかが想像できるのではないでしょうか。 
その後、多くの家にお風呂が備え付けられるようになるにつれて利用者が減っていき、後継者問題や施設の老朽化という理由で多くの銭湯が廃業に追いやられてしまいました。都内の銭湯の数は令和3年時点で、約480軒にまで減少しています。 

しかしその一方、ここ数年で若い世代が経営に関わり始めたことで、一部の銭湯が業界に新たな風を吹き込み、今までの銭湯の利用者層より若い20〜30代の人々の間で密かなブームが起き始めています。年季の入った施設は伝統やレトロな雰囲気を感じさせてくれますし、自宅にはない大きくてバリエーション豊かなお風呂が疲れた身体と心を癒してくれる。そして様々なバックグラウンドを持つ人々が癒しを求めて集まり「新たなつながりや新たな文化の生まれる場所」としての銭湯が、若い世代にとって新たな体験、今までになかった魅力だとして親しまれています。入浴料も平均して500円ほどであるためお財布にも優しく、お手軽なリラクゼーションとして銭湯に通う人も増えているんだそう。最近では、銭湯やサウナを専門に扱う新しくお洒落なメディアもいくつか登場しています。 

東京銭湯: https://tokyosento.com/
フロサウナ: https://furosauna.com/
サウナイキタイ: https://sauna-ikitai.com/

そんな銭湯業界の最前線を走り続けるのが、高円寺にある老舗銭湯「小杉湯」。小杉湯は昭和8年に創業し、現在3代目となる平松祐介さんが当主として経営されています。 
初代から引き継がれる伝統のミルク風呂や昔懐かしいレトロな内装が多くの人々に愛されているだけではなく、イベントを開催したり、SNSを積極的に活用したり、オリジナルのグッズを展開していたりと、老舗でありながら「新世代の銭湯」の代表として注目されています。 
この記事では、そんな小杉湯の伝統の継承や新たな文化の創造のストーリー、そして銭湯という場所を創り守っていくことに対する想いやコダワリをご紹介します。 

小杉湯について

伝統を継ぎ、自分の想いを表現する場所

小杉湯はJR中央線の高円寺から歩いて5分ほどの細い路地に位置し、今年で創業89年目を迎える老舗銭湯です。唐破風屋根に鯉の彫刻が施された玄関、脱衣所と浴室をつなぐ高い格子天井、立派な宮造の建築は小杉湯の歴史を感じさせます。 

長い歴史があり、老若男女から愛され続けてきた小杉湯の息子として生まれた平松佑介さんですが、小杉湯を承継することに対しては漠然と悩んでいたそうです。1日の大半を小杉湯の敷地内で過ごすことで、社会と切り離されて世界が狭くなってしまう恐れや、自由がなくなってしまうのではないかという不安。そのような悩みから大学卒業後は一度、住宅メーカーに就職をし、その後はベンチャー創業にも携わりました。 
銭湯とは離れた環境での生活をしばらく続けると、そこでの経験が平松さんに銭湯業に対する想いに変化を与えました。事業や活動を通じて人々に何かを伝える喜び。物事をゼロから創りあげることの楽しさや難しさ。そして高円寺の文化発信の拠点のような場所をつくりたいという想い。それらを感じ考える中で、伝統があり地元の人なら誰もが知っている小杉湯の凄さ、ゼロイチで新しいことを作るよりも、小杉湯を通して自分の想いや文化の発信をする方が面白いことができるのではないかと思い至ったそうです。 
さらに平松さんの背を押したのが、先代である父と母、そして愛娘の存在でした。社会人になって改めて両親の働く姿を見た時に、世の中こんなに楽しそうに働いている人は少ないと感じたこと。そして幼いころ家に帰れば銭湯で働く両親がいたように、平松さん自身の娘さんとの時間も大切にしたい、毎日「おかえり」と言ってあげたい、迎えてあげたいと感じたことが、大きなきっかけになりました。 

2016年に正式に小杉湯に入ってからは、自分の想いを表現することに力を入れました。先代の父が先先代の祖父の背中を見て新しいことに挑戦したように、平松さんも父の背中を見て自分なりの小杉湯を表現し、新たな挑戦を欠かしません。 
先代はお客さんが毎日来ても飽きないように日替わり風呂を始め、それを今でも平松さんが継承しています。そして平松さん自身も新たに小杉湯の隣に位置する会員制シェアスペース「小杉湯となり」を始める、長年愛されるミルク風呂の入浴剤を販売するなど、常に「新たな小杉湯」を更新し続けています。 

想いとコダワリ

小杉湯があるからこそ、生まれるつながりがある 

小杉湯は訪れる日ごとに異なる顔を見せてくれます。最近では、銭湯の魅力をイラストで伝える活動、浴場での音楽イベントの開催、全国各地の生産者や小売の方達とのコラボレーションなどの新しい試みによって、小杉湯に来るお客さんの幅が日々広がり続けています。 
常に新しいサービスやユニークな企画を提供することで、利用者にとって銭湯を風呂に入る目的だけのありきたりな銭湯にせず、日常の中に小さな幸せを見つけてもらうための新しい環境として利用してもらうことができる。お風呂に入りたい人、癒しを求める人、企画を楽しみたい人、さまざまなバックグラウンドの人が集まり、普段の生活では交わることのない人々の出会いやつながりが生まれる。それが多くの人に愛される一つの大きな魅力になっているのではないでしょうか。 

お客さん同士のコミュニケーションが起こりやすいような工夫もされています。待合室や脱衣所を居心地のいい空間にしたり、話題にしやすい高円寺のお勧めの飲食店の紹介が掲示されていたり、ドリンクを無料で配布するイベント期間があったりと、空間にいること自体が楽しいと思えたり、誰かと話したくなるような仕組みが自然な形で環境に組み込まれています。 
平松さん自身が「小杉湯を通じて、たくさんの人たちが集まってきてくれて、つながりや企画が生まれていく。小杉湯があるからこそ、生まれるつながりがあった。」と述懐するように、こうしたイベントは元々小杉湯の利用者として通っていた利用者が出したアイデアであることも多く、つながりがイベントを生み、またイベントが新たな利用者とのつながりを生む。小杉湯にはそんな素敵な循環があるんですね。 

「伝統」と「新たな文化」が織りなす空間を作る 

小杉湯は隅々まで手入れが行き届いていて、建物の古さにもかかわらずとても快適で清潔感のあふれる空間になっています。これは利用者に気持ちよくお風呂に入ってもらうために、代々受け継がれている「いつも清潔に、キレイにすること」という理念を大切にしているから。
 また初代から受け継がれる小杉湯の名物「ミルク風呂」は、優しいミルクの香りと柔らかな肌触りで、子どもから高齢者まで、あらゆる世代に長い間愛され続けています。こうして小杉湯は、代々大事にしていること、モノを受け継いでいます。 

その一方で、伝統に縛られず常に新しい文化を取り入れることも、小杉湯の人気の秘訣。例えば「銭湯ぐらし」というプロジェクトもその一つ。小杉湯に隣接した場所にある小杉湯所有の風呂なしアパートに一年間、小杉湯のファンの方々に住んでもらう。家賃は無料とする代わりに、住人がやりたいことをそれぞれ小杉湯で実現してもらうというもの。 
「銭湯ぐらし」にはアーティストや芸術家、出版社の編集者など多種多様な人たちが参加し、それぞれがユニークな取り組みを行いました。結果として彼らが考えた「銭湯フェス」などの音楽イベントや、企業とのタイアップにつながり、こういったイベントがSNSでも話題になることで、小杉湯を多くの人に知ってもらい、実際に来てもらって、より多くの人に愛されるきっかけとなりました。 

平松さんが「1代目と2代目が繋げてきたタスキを正確に受け取って継続することも大事ですが、次の世代に繋ぐためには日々変化を取り入れることも同じくらい大事なんです」と語っているように、小杉湯は「伝統」と「新たな文化」が混在するカオスで、それゆえに素敵な場づくりができているのだと思います。 

小杉湯の未来

日常の中に非日常を作る 

小杉湯では利用者に提供する価値を「ケの日のハレ」、つまり「日常の範囲にある、ちょっとした贅沢」ができる環境であり続けることであると定義しています。 

家にお風呂が当たり前にある現在、銭湯が衰退するのは必然。今、銭湯の捉え方はかつてとは大きく異なっている。入浴のためだけの銭湯が日常のものだとしたら、スーパー銭湯や温泉は非日常のもの。その中で、「小杉湯」が提供するのは『ケの日のハレ』、つまり『日常の中の非日常』である。 

繰り返される日々の合間に、ふと深呼吸をするように小杉湯を訪れる。ケの中にささやかなハレを感じ、またケに戻る。その積み重ねで、小杉湯に関わる人のそれぞれの物語が作られ、人同士が繋がりあい、時代と世代を超えた輪になっていく。 

そのためにまずは「居心地のよい環境である」という本質的な価値を提供し続ける。そのためにお客さんの声や要望などにも真摯に向き合っています。 しかしどんなに真摯に向き合っていても、どんなに頑張っていても、完璧な体験が完成する日はない。だからこそ日々訪れてくれた利用者をしっかりと見つめ、向き合い、考え続ける。それが小杉湯という環境や利用者のことを大切にするために必要なんだ、と平松さんは考えています。現在も週に一回は新たなプロジェクトに関しての会議を欠かせることはなく、今後も新たな価値を提供し続けていくと宣言されています。 

昭和8年から、89年にわたって続いてきた小杉湯。そんな場所を守り続けていくため、平松さん含め小杉湯の皆さんは、伝統と新しい文化の織りなす素敵な空間を日々を創り続けています。小杉湯という環境が今も利用者に愛され続けているのはそんな彼らの想いや未来に対するワクワクがあるからでしょう。 
平松さんは「僕が受け取った、たすきをこれからもつなげていくこと、50年100年先も続いていく銭湯にしていくことが一番の目的だと思っています。」と語ります。これからも末永く愛されるであろう小杉湯。みなさんも高円寺の老舗銭湯で、古くから地元の人に愛されてきた伝統と、平松さんによって切り開かれた新しい文化を楽しんでみませんか。 

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