AJC:シューズ開発チーム インタビュー

「ASICS JAPAN COLLECTION」(AJC)は、ASICSのスポーツシーンにおける高度な製造技術により生み出されたモデルに、日本独自のクラフトマンシップを吹き込み誕生したコレクション。マーケティングチームへのインタビューでは、企画誕生の背景やASICSの考える「日本らしさ」「クラフトマンシップ」といったコレクション全体に関するお話を伺うことができました。 

そして今回取材を行ったのは、AJCの中でもシューズの開発に携わったチームの皆様。モノづくりの現場におけるより具体的なお話や、AJCのシューズに込められた日本らしさやクラフトマンシップ、それだけではなくASICS全体のモノづくりへの想いなど、なかなか聞けないお話を伺うことができました。ASICSファンの皆さんもちろん、シューズやスニーカーファンの方も必見のインタビュー、是非お楽しみください。 

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ASICS JAPAN COLLECTION の誕生した背景や、ASICSの考える「日本らしさ」「日本のクラフトマンシップ」についてのインタビュー

ASICS JAPAN COLLECTON:マーケティングチーム インタビュー

「日本らしさ」を素材で表現する

–本日はよろしくお願いいたします。まず初めに、シューズはどのような工程を経て製造されるのでしょうか 

[マルオさん] 
よろしくお願いします。シューズ作りの工程は意外と複雑でしてざっくりな説明にはなってしまいますが、企画、デザイン、開発、量産という大きな流れがあります。まず営業やマーケティングサイドから「こういうものがお客様に必要とされている」「今売れそうな商品はこういうもの」という企画が流れてきて、デザイナーが2Dあるいは3Dのデザインを作成、それを基にデザイナーと開発とカラリスト[colorist:商品の色の決定や調整を専門に行う人]で素材の選定とカラーリングの決定を行います。 

次に開発がデザインや素材、決められた色からスペック[商品製造の仕様書のようなもの]を決めて、asicsが長年に渡って開発/調整してきた日本人の足型に合わせてパターン作成やグレーディング[grading:1つのデザインから複数サイズのパターンを作成すること]を行い工場に製作を依頼する。また同時にソール[靴底]作りも並行して行ってます。 

–これであとは組み合わせて終わりという感じですかね 

[マルオさん] 
ここからも結構長くてですね、工場から帰ってきたアッパー[シューズから靴底を除いた部分]やソールを都度デザイナーと開発で確認して、何往復かやりとりをしてサンプルを作ります。サンプルも1st、2ndと会ってフォトサンプル[商品撮影用のサンプル]やセールスサンプル[販売促進/展示会用のサンプル]なんてものもそれぞれ作られたりするんです。ここからさらに量産開始直前まで使用の変更が入ることも多く、ギリギリまでより完璧でお客様に喜んでいただけるであろう商品を作っていくわけですね。 

–これでもざっくりお伝えいただいたわけで(笑)、1つの靴にこんなに多くの工程があって、多くの人が関わっているとは思いませんでした。ASICS JAPAN COLLECTIONの商品も同様に製造されたわけですよね。 

[マルオさん] 
それがまた少し違いまして、AJCに関してはシューズに使用する素材が大事だろうということで、違う工程を採用しました。カワノさん、お願いします。 

[カワノさん] 
通常の製品はデザインありきで素材を選定するわけですが、AJCの商品に関してはまず初めに素材の選定から始まったんですね。シューズで「日本らしさ」を表現するということで、なによりも素材を大切にしたいという想いがありました。今回は全く新しい靴の形を作るわけではなく、基本的には今まで多くのお客様にご愛用いただいてきたシューズラインナップをベースとした特別コレクションということですので。もちろんそれら昔からある商品にはすでに「ASICSのクラフトマンシップ」が詰まっているわけですが、そこからさらに「日本のクラフトマンシップ」を表現する上でなにより素材の選定からこだわってやりたいと。 

日本中に今どういう素材があるのかという調査を行い、その中でより日本らしいもの、例えば伝統工芸である、海外に似たようなものがない、日本由来の素材である、製法や製作環境が日本にしかないですとか、そういった視点がまず一つ。その上で、それらが日常の中で使っていただく製品として色目や雰囲気がリアルクローズに合うのかどうかという視点も重ねて、素材の選定を行いました。そこからようやくデザインが始まったという形ですね。 

伝統工芸品と、引き算の美しさ

–素材への想いから、通常の開発工程を変更するというのは簡単なことではないでしょうし、まさにこだわりですね。その結果どのような素材が選ばれたのでしょうか 

[マルオさん] 
まず「GEL-KYRIOS」という商品で使用されている、鈴鹿墨ですね。これは三重県で江戸時代から続く墨の職人さんが作られている伝統工芸品です。徹底的に「日本のクラフトマンシップ」にこだわって素材を選定するのはもちろんですが、お客様、国内だけではなく海外のお客様に対しても、やはりある程度わかりやすいアイコニックな素材が使えたらという思いもあり、墨の和のイメージ、「日本の黒」としての墨、そして伝統工芸品でもある鈴鹿墨、ということで採用しました。墨で皮を染めるというのは非常に難しい技術で、珍しいものですのでそういう面白さやストーリーもありますね。実際に染色工程では苦労も多く、墨を作られている方、革のサプライヤー、そして我々で試行錯誤を重ねてなんとか商品になりました。 

もう一つは新たな素材を使うのではなく、既存の素材への考え方を変えたもので「GEL-NIMBUS 20」「GEL-KAYANO 14」に使用されているウェットブルーのレザーですね。革は動物から採取されたのち、状態を安定させるための液体に含浸されて淡い青色になってるんです。その後普通は鞣し工程や染色工程、さらに色落ちさせないための化学薬品の使用等があって皆さんが見慣れている革の状態になっているんですが、今回はあえてこれを省こうと。 

必要最小限で無駄なものを省いて作品を生み出す日本的な「引き算の美しさ」ですとか、そこから工程の削減や化学薬品の使用を控えることによるサステナブルな製造方法、できるだけ自然に近いものをという考え方も「日本らしさ」なのではないかという視点で今回の商品となりました。 

–素材をこだわって選定されていたということですのでその発想は驚きました。確かに「日本らしさ」として素敵ですね。 

–鈴鹿墨での染色は大変だったとのことですが、具体的にどのような工夫があったのでしょうか  

[マルオさん] 
通常のテキスタイルであれば問題はないのですが、革を墨で染めるとどうしてもムラが出てきてしまうんですね。もちろんできるだけムラが出ないような方法も試行錯誤しましたが、完全になくすことは不可能でした。そうなると例えば当然ジャケットなど大きな面積を使う商品には使えないわけです。靴は一つ一つのパーツが小さいので目立ちにくいとはいえ、均一な品質を保持できるかどうかわからないという難しさはありました。結果として一点一点少しずつ風合いが異なる「一点モノ」としていい商品にはなったと思っています。 

[カワノさん] 
私たちのような規模の企業としては、やはり常に一律の品質の商品をお客様に届ける、というのを大切に普段商品作りをしているので、文化的に難しい部分もありましたね。ただその一点一点の風合いの違いについてチームで話し合いを重ねるうちに、今回のコレクションにおいては美点になるのではないかと。小さな工場で一点一点作るようなクラフト精神溢れる商品と、大企業ならではの品質が安定してテクノロジーや利便性の詰まった量産品、その両方を表現できる中間のような製品になったのではないかと思っています。 

「日本のものづくり」の強さ 

–素材以外の部分で、こだわった部分ですとか工夫されたことがあれば教えてください 

[カワノさん] 
今回のシューズのベースとなっているのはアスレチックシューズ[ランニングシューズ]なので、通常であればメッシュ素材や化学繊維等で作られているんですね。それをフルレザーでやった時に、デザインとしてぱっと見の面白さやバリューが出にくいというのはありました。如何に素材の良さを表現しながら、元のシューズ以上のバリューが出せるかというところでの試行錯誤、デザインの変更には特に繊細なバランス感覚を持って取り組みましたね。先程の話にあったような「引き算の美しさ」という部分で、何かパーツを増やして装飾的に表現するのではなく、素材自体を活かそうと。レーザー加工で変化をつけたのもそういう意図です。革の染色のムラ感をどう活かすかという部分でも結構試行錯誤しました。 

[マルオさん] 
製造の部分でのこだわりでいうと、やはり今回は第一に素材ということですね。またラスティング[縫製がある程度終わったものをラストと呼ばれる木型に挿入して形を整える作業]、アッパーとソールの接着や仕上げ工程など、最も緻密さや丁寧さが求められる部分に関しては、ウォーキングシューズを専門に扱っている国内の自社工場で行ったので、履き心地やディテールといった部分について圧倒的にクオリティの高い商品になっているのではないかと思います。これは海外工場での大量生産だったらおそらく実現できなかったものだと思います。 

–海外では、というお話がありましたが、やはり「日本のものづくり」は海外とは違うんですかね 

[マルオさん] 
海外の工場で生産されている商品の担当もしていますが、その上でやはりそこはかなり違うなと思います。仮に同じ商品の製作をそれぞれ依頼したとしても、出来上がってくるものはかなり違うと思いますよ。海外工場では基本的に何万足という大量生産なので、例えば今回のAJCのようなそこまで規模の大きくない生産では求められる効率性も違ってきますし、良し悪しではないのですが、分かりやすくいうのであれば工員と職人の違いといった感じですかね。 

海外の工場の場合、言われたことを効率重視で機械的にやるしそもそも工場組織としてそこまでの正確さや丁寧さを求めていないことが多い。一方で日本は製造に関わる一人一人に職人的な気質があり、こうした方がより美しいのではないか良い商品になるのではないかというマインドがあるように思いますし、それが「日本のものづくり」の強さなんじゃないですかね。常に期待以上のものが上がってくるのは素晴らしいことだと思います。もちろん「規模」や「国民性」の違いといった部分でもあるので、絶対的な優劣ではないですけどね。 

ASICSのものづくり

–「一人一人が職人」というのはすごいことですよね…私は全く関係ないですが少し誇りに感じてしまいますね(笑) 

–ASICSさんだからこそのものづくりですとか、強みというのはどのようなところでしょうか 
 

[マルオさん] 
なんとなく外から見てらしてもわかると思うんですが、ASICSはやはり堅い会社、どちらかというと質実剛健な会社というイメージですよね(笑)。その分お客様からいただいている信頼も厚いものだと自負しています。そしてその裏付けになっている、評価していただいている部分、他のメーカーさんより優れている部分はやはりテクノロジーだと考えています。弊社にはスポーツ工学研究所という、人間工学やスポーツの動作分析などを行っている組織もあり、一流のアスリートの皆さんと協力して商品を開発することもある。最先端の研究成果を常に商品に取り入れてきました。そこから生まれた機能素材や機能構造のノウハウや蓄積がASICSの財産ですね。 

スポーツシューズの8大機能「フィット性・安定性・屈曲性・軽量性・耐久性・グリップ性・通気性・クッション性」、これらは決してスポーツシューズだけにしか役立たないものではなく、皆様が普段使いしていらっしゃるようなスニーカーやタウンシューズにも、当然履き心地や快適性となって貢献できるものです。スポーツの研究から得られた成果を広く多くの方々に使っていただける製品に落とし込めるというのが、私たちASICSの強みなのではないかと思います。 

またこれは日本全体的な傾向でもあると思いますが、やはり品質管理についても非常に高い水準を保っていると思います。海外の工場の方々に話を聞くと、やはり日本の製品の管理は圧倒的に厳しい基準でやっている、特にその中でもASICSは厳しい、素材の状態や色の正確性から強度テストなど全てにおいて基準が高いという話を聞いているので、そういった点も含めて他のメーカーさんより品質の高いものをお客様に提供できているのではないかなと思っています。 

[カワノさん] 
マルオが申し上げた通り、商品の機能性やテクノロジーに関しては信頼や実績があると思っていまして、お客様が弊社により求める部分として、シューズであれば街履き用のタウンシューズとしてよりリアルクローズに合うものを、というのがあると思います。そういった部分に対しても、どんどん新しいメンバーや社内の変化、時代への対応をしっかり行ってより良いものを作っていこうという風土があるのは素敵なことだなと、手前味噌ながら思います。今回のAJCもそういった文脈におけるプロジェクトの一つですし、これからもっと良いものを作っていけるのではないか、お客様に喜んでいただけるのではないかと考えていますね。 

一人一人にやりたいことがあるチーム

–テクノロジーという土台がありつつ消費者のニーズに応えていくというのはさすがですね 

–今回のASICS JAPAN COLLECTIONのシューズを履いてくださった方にはどんなことを感じて欲しいですか 

[カワノさん] 
ASICSの方針として「Longer use」、長く履いてもらえる商品を作るということがあるのですが、今回の商品についてもまさにそれで、長く履いていただくことによってレザーの経年変化を楽しんでいただきたいですね。段々足に馴染んでいったり、愛着が湧いたり、履き続けることで自分のものにしていく感覚を味わっていただければ幸いです。 

[マルオさん] 
日本人の足に一番合った靴を作っているのは我々ASICSであると自負していますので、まずはその履き心地を楽しんでいただきたいですね。また「Longer use」にしてもウェットブルーのレザーにしてもサステナブルな要素のある商品ですが、日本人には元来「ものを大切にする美徳」のようなもの、そういう文化があると思っていまして、そういう意味でも日本の良さが詰まったコレクションになっているのではないかと思います。そういう観点でも、愛用している方に「自分は素敵な靴を履いているんだな」と思っていただけたら嬉しいですね。 

–最後になりますが、皆さんチームとしてでも個人としてでも、今後チャレンジしていきたいことはありますか 

[イザワさん] 
今回の墨レザーもそうですが、履いている人のオリジナリティを表現できる商品をもっと作っていきたいですね、一足一足違った味があるようなものでしたり、パーツやカラーリングを選べるようなサービスなどもやってみたいなと思います 

[カワノさん] 
今回調査した中でも本当に数多くの素材があって、靴作りに活かせるものはまだまだ沢山あるんじゃないかと思ってます。その中でサステナビリティですとか文化への貢献ですとか、そういった視点も含めて新しいシューズ作り、デザインをしていきたいなと考えています 

[マルオさん] 
Z世代[10代後半〜20代]のお客様に響くような商品作りにチャレンジしていきたいですね、そういった世代の人達が友達に自慢できるような靴を作って行けたら、個人としてもワクワクしますし、ASICSのより一層の進化にもつながっていくのではないかと思います 

–シューズ作りという大きな目標の中で、チームの皆さんそれぞれにやりたいことがあるというのは本当に素晴らしいチームだなと感じましたし、だからこそ良い商品が生まれるんだなと思いました。 
–次の商品やコレクションも楽しみにさせていただきます。本日はありがとうございました。 

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