やまこうファーム
知る人ぞ知る新たな選択肢、国産コーヒー。
「おいしい苦味」の代表、コーヒー。子供の頃は苦手だったけど大人になるにつれて好きになり、気がつけば毎日何杯も飲むようになっていた…なんていう方も多いのではないでしょうか。2022年の調査によると、なんと日本国民の半分以上、約60%の人々が日常的にコーヒーをよく飲んでいるそうです。国民1人当たりのコーヒー消費量も年間約300杯で世界14位と、多くの方に愛されていることがわかりますね。
日本のコーヒー文化は年々盛り上がりを続け、「サードウェーブコーヒー」の到来や、老舗でレトロな「純喫茶」への再注目など、話題にこと欠きません。苦味や酸味にフルーティーさなど、好みに応じた多様な味のバリエーションはもとより、豆の産地、発酵の手法、焙煎の方法や加減、ドリップの仕方…などなど、好みのコーヒーに出会うための選択肢もどんどん増えています。
そんなコーヒーシーンに近年登場した、まだ知る人の少ない新たな選択肢が「国産コーヒー」。和食に表現されるようなまろやかさ、苦味や酸味の角がなくそれでいて豊かな香りのコーヒーは、愛好家の皆さんにはもちろん、「ちょっと苦味が得意じゃなくて…」と普段コーヒーを飲まない方にもオススメできる逸品です。
ただ単に日本で栽培されているというだけではなく、日本酒や味噌などで培われた日本独特の発酵手法を取り入れるなど日々進化を続けていて、熱心なコーヒー愛好家の間で密かに話題となっています。
国産コーヒーの主な生産地はこれまで沖縄や奄美に小笠原などの熱帯気候に近い土地に限られていましたが、この記事でご紹介する岡山県の「やまこうファーム」は、本州で初めて商業用国産コーヒーの栽培に成功した国産コーヒーのパイオニア的存在です。まだその味どころか存在すら知らない人も多い国産コーヒー。どんな人が、どんな想いで、どのように作っているのかを知るべく、やまこうファーム株式会社の創業者である山本耕祐さんにお話を伺いました。
やまこうファームについて
「愛されているものだからこそ、自分たちの手で作りたい」
– やまこうファームを創業された背景や創業から今までの経緯をお聞かせください。
15年ほど前、縁あって、ある熱帯植物の研究者の方と出会ったことがきっかけです。先生は海外で熱帯植物の研究をされていたのですが、定年を迎えて日本に帰国されてからは、国内で熱帯植物を育てることを研究されていたそうで。その際、たまたま農業をやっていた私にお声がけいただいて、熱帯植物を共同で育て始めました。やまこうファームはそこで熱帯植物を日本で育てて普及させたいという想いで起業したんです。今はコーヒーをメインに栽培していますが、当初は日本(特に本州以北)で栽培されていない熱帯植物の生産、研究を主としていました。
– コーヒー以外にはどんな植物を栽培されていたんですか
最初はパパイヤの栽培からですね。パパイヤは比較的すぐに低温に適性のあるものを作ることができました。本土の土、気候でも作れて、しかもとても美味しいものができたので一時は東京にも出荷していたんです。ただ、ブーム的なものですぐに売れなくなってしまいましたね。
それからバナナの栽培を始めました。バナナも本州では本来難しいものでしたが、日本で初めて商業作物としての栽培に成功しました。それでも、皆さんがイメージするフィリピン産のバナナのような大きさのものは育たないんです。やっぱり気候の問題があってどうしようもない部分なんですよね。当時は結構人気を頂いてましたが、今現在は観光にきたお客さんにお見せするためくらいにしか作っていないです。それでも実際のバナナの木を見られたお客さんは喜んでくださるので、細々と続けていこうとは思っています。
– やはり日本で熱帯植物を育てるのは難しいんですね…
– コーヒーはいつごろから育て始めたのでしょうか
だいたい10年くらい前、バナナを育てていた頃に、コーヒーの栽培研究も同時並行で開始しました。
コーヒーは日本全国で多くの人々に日常的に飲まれているのに、その自給率は1%未満で、ほとんど全てを海外からの輸入に頼っているんですね。それってどうなんだろうというか、こんなにも愛されているものなんだから自分たちの手で作りたいな、作れたら面白いなというワクワクから始めました。
コーヒーは、自分たちの納得できる商品を作れるようになるまでに他の植物よりもかなり苦労しましたが、そのワクワクのおかげで研究を続けられましたし、それだけ想い入れは強いものですね。
また、研究をしながら細々と発信を続けていく中で、興味を持って連絡をくれる人が現れたんです。農業ではなかなか珍しいことだと思うのですが、今やまこうファームで働いてくれているのは、募集をせずとも自分からやってきてくれた人がほとんどですね。もともとコーヒーだったりカフェが好きだった人たちが、インターネットなんかで私たちのことを知って興味を持って、というのがきっかけなので楽しく情熱を持って仕事をしてくれています。本当にありがたいことですね。
想いとコダワリ
12年以上の研究成果。「日本のコーヒー」にしか出せない味を。
– コーヒーを栽培/研究するにあたって、苦労された点はなんでしょうか
研究開始当初は実がならない、なったとしても数量がかなり少なかったので、いかにしてたくさんの実が取れる苗を作るかが課題でした。みなさんよく勘違いされるんですが、私たちは複数種の苗を交配したり、遺伝子組み換えをしているわけではないんですよ。アラビカ種のティピカという単一品種にこだわり、それでいてより強い苗を作るために、氷河期のような状態を作ったんです。苗を人工的に悪い環境に置くことで「偶発的に」適性のある苗に進化してもらい、その強い苗同士で交配させていったんです。1万個植えたとして、そのうち2-3個しか芽が出ない。その奇跡的に生まれた苗同士を交配させてより環境適正のある子孫を残していく、という原始的で手間のかかるやり方なんですね。
こうした研究を続けていたら納得がいくコーヒーができるまで12-13年はかかりました。私たちだけでもこれほど時間がかかっていますが、共同で研究していた先生はもっと前から試行錯誤されています。
とは言っても、コーヒーの実が育つのは3年に一度のペースなので、時間がかかる割には実験できる回数は限られていたんです。いま自信のある実を提供できているのは「たまたま」と言ってもといいかもしれませんね。これからもっと良い苗や実ができる可能性もまだまだあると思います。
– 本来適さない環境でおいしいコーヒーを作るということは、やはり大変なものだったんですね。
– そうして生まれた国産コーヒーの魅力はどういったところでしょうか
海外産のコーヒーとの比較で言いますと、苦味や酸味が明らかに違います。一言で表すと「まろやか」がしっくりきますね。やはり日本の気候や土壌のおかげによる違いだと思います。和食などもそうですけど、日本的な雰囲気の柔らかく優しい味わいで。メーカーの方々が視察に来られたりするんですがみなさん「まろやか、飲みやすい」なんて言ってくださいますね。普段はコーヒーをあまり飲まれない方に「初めてコーヒーっていいなと思った、これだったら飲みたい」と言っていただけたのも嬉しかったです。
輸入品と比べると当然鮮度がいいということも大きいと思います。収穫してすぐに加工に入れるというのは、やはりフレッシュさや香りなどの面でメリットが大きいですね。また海外では栽培に農薬を使うことも多いのですが、うちでは無農薬なのでよりコーヒー本来の味わいや香りを実感できるかと思います。苦味がまろやかということにも関係していると思います。
– コーヒーを商品に加工する上でのコダワリがあればお聞かせください
一番のコダワリはやっぱり「発酵」ですかね。コーヒーも味噌のように、まめに菌というか麹のようなものを添加して発酵させているんです。そうすることでコーヒーにフルーティさや新たな香りが添加される。もともと発酵は、果肉を取り除いた後の精製の過程でコーヒー豆の周辺についている不要な物質を取り除くために行われていたんですが、近年ではその商品ごとに特有の香りを生み出すための技術として注目されています。
日本は、納豆や漬物、味噌や醤油に日本酒などの発酵食品大国ですから、優れた技術を持っている職人さん、発酵のプロ中のプロが多くいらっしゃって、そういった方々と協業させていただいて、商品の開発に取り組んでいます。
発酵の手法や、使用する菌や麹によって味や香りはかなり変わってくるんです。例えば日本酒も、フルーティになったり辛口になったり、バナナ香だったりナッツ香だったり、いろんな味や香りがしますよね。今現在も、そういったあらゆる可能性の中から、私たちの育てたコーヒーに一番マッチする発酵方法を模索しています。酒蔵さんや味噌蔵さんなど、いろんな方に協力してもらっていますね。それも「日本のコーヒー」にしかできない面白さだと思います。
やまこうファームの考える未来
「日本のコーヒー」を持続可能な農業に。そして日本中、世界中に届ける。
– お話を聞いているだけでも魅力的と言いますか、新しい可能性にとてもワクワクします
– そんな国産コーヒーを広めるために「ジャパンコーヒープロジェクト」を立ち上げたと伺いました
「ジャパンコーヒープロジェクト」は、日本で栽培されたコーヒーをより多くの方々に飲んでいただく、そしていつか世界中に届けたいという私たちの想いに共感していただいた、コーヒーを愛する方々にコーヒー農園を作っていただくプロジェクトです。苗木を全国のオーナーになりたい方に販売、そして栽培のための施設や環境づくりといったノウハウ面でのサポートを行っています。現在は千葉だったり、京都だったり、最北ですと宮城県でもビニールハウス20棟の規模でやっていただいているんです。
もちろん、オーナーが増えて日本中にコーヒー栽培が広がっていくことはありがたいのですが、温室栽培が前提で、暖房費や設備費用は割高になってしまうため、現時点ではまだ収益事業として栽培するには向いていない作物であることは知っていただきたいです。今日本各地でオーナーをやっていただいている企業のみなさんもほとんどが利益というよりも、会社のPRや町おこしとして栽培しているんです。コーヒーを通して地域振興に貢献できるというのは素敵なことですし、こういった想いに私たちも共鳴して、栽培のサポートを販売対価以上に全力でやらせていただいています。その循環で国産コーヒーのことをより多くの方々に知ってもらえたらありがたいですし、その土地土地で味が違ってくるのではないかというワクワクも強いですね。
また、私たちが岡山で育てている苗木一本ずつのオーナーとなれる権利も販売していまして、こちらはコーヒーが好きで自ら栽培してみたいけど土地がない人、手間をかけられない人、例えば東京でサラリーマンをやられている方などにご好評いただいています。待ちが出る状況になることなどもあり、今後もハウスを拡張して色々な方に自分だけのコーヒーの木を持っていただきたい、そういった活動を通じて、より国産コーヒーの存在をより多くの方に認知してもらう、より身近に感じてもらいたいと思っています。
– コーヒーの木のオーナーになると、どんなことができるのでしょうか
毎月送らせていただいている写真付きのレポートも好評ですが、一番喜んでいただけるのは収穫体験ですね。もちろん岡山までいらっしゃらなくても育った実をお送りすることはできますが、実際に収穫はおろか、コーヒーの木の実物を見たことがない方がほとんどですので、自分のものとして育っている木があり、実を収穫できるということにすごい感動していただけるみたいです。コーヒーだけではなく、農業全般に関心を持っていただけることにもつながっているかなと思います。
– やまこうファームが目指す未来を教えてください
日本の人々に「国産コーヒー」の存在を知ってもらう、飲んでもらう、好きになってもらうというのがまずは一番ですし、1%未満という現状の自給率を少しでも上げられたら嬉しいです。先程お話しした町おこしですとか、雇用の早出にもつながればより幸せなことですね。
そしてその先で、世界に通用する日本の農作物の一つとして国産コーヒーを広めたいですね。高級フルーツを代表に、日本の農作物は世界でも人気ですが、コーヒーはまだほとんど知られていません。日本にはこんなに美味しいコーヒーがあるんだと、世界中の方々に知っていただきたいと考えています。
近い将来で出来ることとして、観光事業化はしたいですね。コーヒーに限らず、カカオやバナナなど日本で育つところをなかなか見られない植物がどう育つのか、自分たちの食卓に運ばれてくるまでにどんな工程があるのかということに興味がある方も多いと思います。どんな花が咲くのか、実はどうつくのか、収穫した実はどんな工程を経て「自分たちが知っているコーヒー豆」になるのかなど、知っていただくと普段飲んでいらっしゃるコーヒー1杯にもより深みが出るんじゃないですかね。そこから農業への興味なんかも深めてくだされば嬉しいことです。
– コーヒーのことをもっと知りたいですし、そういう機会を作ってくださるのはとても素敵ですね
– 最後になりますが、農業や、国産コーヒーの栽培にかける想いをお聞かせください
想いと言いますか、やっぱり大切なのは国産コーヒーの栽培を持続可能な農業にしていくことだと考えています。私たちが育てているアラビカ種のティピカという品種はもともとが高い値段の豆ですし、ビニールハウスでの栽培だとどうしても販売価格は高くなってしまいます。それでも農家さんにはしっかり利益をとってもらいたいですし、価格競争になって欲しくはありません。
もちろん多くの方に広めるための普及価格帯で展開することとのバランスも大事ですが、長期的に見て農家さんが続けていけない、コーヒーの栽培によって幸せになれなければ日本の農業として根付かないですしね。そのためにはより値段に見合ったコダワリのある商品をオーナーや農家のみなさんには作っていただきたいですし、私たちももっと研究を続けてより良い商品を開発しつつ、「ジャパンコーヒープロジェクト」に参加してくださってる全国の苗木オーナーのサポートをしていきたいです。
– 国産コーヒーの栽培に対する情熱や想いはもちろん、山本さんの素敵なお人柄が感じられる素敵なインタビューでした。「日本のコーヒー」の次なる展開を楽しみに、心待ちにしております。
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